テックスタックにとらわれない重要性/SiriusDecisions Technology Exchange2018

膨張し続けるマーテックカテゴリ、テクノロジースタック

2019年4月4日の最新データ(マーケティングテクノロジーカオスマップ)によると、マーケティングテクノロジースタックのツールの市場総数はついに7千を超え、7,040にも登ります。

マーテックスタックのカテゴリーや、各カテゴリーに属するツールが増えつづける中、数ある中から自社に合ったものを選択しなければならないのは非常に骨の折れる作業です。

 

テックスタックの病「Categoritis™(カテゴライティス)」

SiriusDecisionsは、2018年11月に開催したTechnology Exchangeで、企業が抱えるテクノロジースタックの課題を「Categoritis™(カテゴライティス)」と名付け、その主症状を次のように説明しています。

 

Categoritisの4つの症状

SiriusDecisionsより日本語版作成

  • Bloated (膨張している):何用にあるか把握しきれていない、余計なテクノロジーを保有している
  • Incomplete (不完全である):目的を達成するために重要なテクノロジーが欠如
  • Siloed (サイロ化):データ同士につながりがなく、カスタマーエクスペリエンスが一つの流れとしてみえづらい
  • Out-dated (時代遅れ):今後のテクノロジースタックに組み込まれる時点で時代遅れになる可能性があるテクノロジーを保有している

そして、上記の副作用として、次のようなものが見受けられると述べています。

  • イノベーションの欠如
  • 無駄な予算とリソース
  • 長く扱いづらいプロセス
  • 非効率な問題回避策
  • カスタマーエンゲージメントの欠如
  • ROIが説明できずリプレースもできない

では、なぜこれらの症状が生じてしまったのでしょうか?

 

要件定義に問題があるケースがほとんど

〜ツールを選択する際に、どのような基準=要件定義で選定するかが成否を分ける〜

自社の提供する製品/サービスの価値を上げるというビジネスのリアルな要件を満たせるかどうか?」という基準ではなく、想定し得るツールやシステムのスペック、機能、UXなどの観点から購入を決定してしまいがちなことが、活用されないテックスタックの屍の原因です。

要件定義に問題が生じる原因には、経営戦略レイヤーから、組織のプロセスレイヤー、システムレイヤーまでがありますが、良くある例として次のようなものが挙げられます。

  • 経営戦略レイヤー

    • ビジネス要件自体が曖昧
    • テックスタック検討プロジェクトとビジネス目標が連携していない
  • 組織のプロセスレイヤー

    • マーケティングプライオリティ、営業、カスタマーサクセスのプライオリティの理解不足または要件に組み込めていない
    • マーケティングプライオリティ、営業、カスタマーサクセスのプライオリティ観点から、ツールを効果的に比較できていない
    • 社内プロセスをどうサポートするべきツールが必要かが不明確
    • チェンジマネジメントができない
  • システムレイヤー

    • 現在の既存システムの整理ができてない
    • テックスタック導入にあたってのROI試算ができない、または、曖昧
    • 契約内容の理解不足
    • テックスタック要件が長期的なビジネス戦略を支えていない
    • 機能的、技術的検証を行う効果的な仕組みがない
  • その他選定時の課題

    • 選定チームメンバーの構成が適正でない(マネジメントチームしかいない、または、エンドユーザーしかいないチームでの意思決定はあとで必ず問題になる)
    • ベンダー提供情報を信用しすぎる

上記にあるような課題をマーケティングの視点だけで解決するのは困難です。しかし、上記の多くは、以下のような理想パスを経ることで改善できるとSiriusDecisionsは述べています。

 

B2B企業のテクノロジーの病「Categoritis™」予防・治療プロセス

SiriusDecisionsTechStack

1.ビジネスにおける優先順位を定義

  • ビジネスの優先順位は何だろうか?ビジネスに求められる結果は何だろうか?

2. ビジネス要件を特定

  • ビジネス要件に求められる行動、活動、アビリティは何か?

3.テクノロジーへマッピング

  • どのカテゴリのテクノロジーがビジネス要件を満たせるだろうか?

上記のプロセスを行うことで、ビジネス優先順位に則したゴール設定が可能になり、ブレのないテックスタックロードマップを描くことができます。また、現行システムとのギャップが明確になり、重複機能なども洗い出せ、二重投資などのムダも防止できるとSiriusDecisionsは述べています。

 

テックウェルネスを目指すマッピングツール

SiriusDecisionsはB2B組織がテクノロジーをビジネス要件と一致させるためのツールとして、「Tech Stack on a Page」をTechnology Exchange2018で発表しました。組織の戦略を実現するために必要な要件は何か、またそれら要件を支えるテクノロジーのカテゴリーはどれかを検討する際に、視覚的サポートを提供するものです。

Tech Stack on a Page

ただ、この3段階の理想パスを誰もがうまく通過できるかというと、必ずしもそう言い切れないのではないでしょうか。

 

あるべき姿を描く難しさ

ビジネスの優先順位を整理する際、まずはあるべき姿が描ける必要性があり、それには構想力ビジネス環境変化の認識などが不可欠になります。マーケティング・営業の役割が描けているか、そして、今日のそれら部門の役割が描けているか、などが重要になります。例えば営業の役割が売り切りの「売上」というゴールだけでなく、継続的な関係を顧客と築くカスタマーサクセスのような要素にまで拡張される必要性がある、など、その時代のパラダイム変化に伴う、顧客のニーズを認識できているかどうかが肝心です。

 

現状分析し、あるべき姿とのギャップを見出す難しさ

次に、わかりやすいようで、なかなか新しい目で見ずらいのが現状分析です。また、あるべき姿と現状は描けても、そのギャップの整理ができないことも。ここで重要なのは、ギャップを構造化し、優先順位をつけることです。

あるべき姿と現状のギャップが整理できても解決策が間違っている可能性もあります。その原因としては、

  • 起きている事象に対する根本原因が深掘りできておらず、表面的な解にたどり着いてしまっている
  • 優先順位付けができず、全部に取り組んでしまい、中途半端な結果となる
  • 解決策や現状リソース起点で問題を整理しているために、解決できる問題から取り組んでしまうこと

などが挙げられます。

テクノロジーの目的は、その利活用を通じての戦略支援であり、導入ではありません。したがって、あるべき姿や現状をよく整理し、ギャップを構造化してビジネスの優先順位をつけるフェーズは、テクノロジーベンダーのカタログを比較するフェーズよりもはるかに重要なフェーズであることは明らかでしょう。

モナール園子(Sonoko MONARD) / 2BC, inc.

B2BMX2019に見る、これからのコミュニケーションのあり方

2019年2月25日〜28日にかけて、米国BtoBマーケティングイベントの1つ「B2B Marketing Exchange 2019(B2BMX 2019)」に参加しました。本ブログでは、B2BMX2019にて取り上げられていたBtoBマーケティングにおけるコミュニケーションに関するキーワードを紹介するとともに、日本での実情と合わせて考えます。

1)デジタル世代の台頭とコミュニケーションのあり方

B2BMX2019には、マーケティングとデジタルトランスフォーメーション(DX)が不可分になっている今、新たなレンズでBtoBマーケティングを見通すということで「SEE B2B MARKETING THROUGH A NEW LENS」という副題がつけられています。Digital Chaosとも呼ばれる現代社会ですが、B2BMX2019でのキーワードは意外にもEmotion、Conversation、Relivance、Proximity、Funなど“人間的”なキーワードが並びました。これからのBtoBマーケティングにおけるコミュニケーションは、デジタル×人間という両者の融合(とその配分)で変化していくことが予見されるテーマです。

B2BMX2019のセッションは、「Content」、「Demand Gen」、「Digital Strategy」、「ABM」、「Sales Impact」、「Channel」、「General Session」というカテゴリに分類されています。特にコミュニケーション/コンテンツに強みを持つ企業が主催者側にいることから、コミュニケーション設計やコンテンツ企画・制作に携わる担当者が数多く参加していたようです。ちなみに2BCでは、BtoBマーケティング及びセールスにおけるコミュニケーションやコンテンツについて、「コミュニケーション設計(コンテンツ開発)」、「コンテンツ企画」、「コンテンツ制作」の3階層に分けて考えていますが、このうちコミュニケーション設計とコンテンツ企画に関する内容を中心に紹介していきます。(参考:Engagement Strategy

 

Break Free Of Boring B2B With Interactive Influencer Content(Lee Odden,TopRank Marketing」より

「BtoBは“Boring to Boring”ではない」という強烈なメッセージからはじまるTopRank Marketing社のセッションに象徴されるように、今回のイベントではBtoBマーケティングにおける“退屈な”コミュニケーションから変革する時が訪れていることを感じさせる内容が数多く見られました。

ほかにも「CustomerからB2B Consumerへ」、「FANDOM / Turning fans into customers and customers into fans」というように、顧客像/買い手像の再構築が始まっていることをうかがわせるキーワードにあふれていました。それは、顧客像/買い手像は無機的で形而上の存在ではなく、血肉を持った人間像としてとらえ直すことが、新しいBtoBマーケティング/セールスでのコミュニケーションのあり方と言えるのでしょう。

米国では近年、MILLENNIALS(ミレニアル世代:80年初〜90年代生まれのデジタルへの共感性が高い世代)が企業の購買決定や意思決定を担うようになり、BtoB企業での購買にも大きな影響を及ぼすことが社会的に話題となっています。その世代の特徴として挙げられるのが、オンライン/オフラインのコンテンツに分け隔てなく接する、広告にはうんざりしている(いかにも売りつけようとしてくる広告は見たくもない)、資料が欲しくてもフォーム入力はしたくない(別の方法を探す)というような例がいくつも挙げられました。一方で、「自身の発言を受け入れてほしい、何かの一部に所属していることを感じたい」という側面もあると指摘されています。そのため、彼らにとって望ましいコミュニケーションとは、関連性の高い情報の提供(Relevance)、対話的であること(MonologueからDialogueへ)、会話しながら話を進めること(Conversations Are Critical)とも指摘されています。

 
「Millennial Mindset: How To Market, Collaborate & Connect With Digital Natives(Brian Fanzo,iSocialFanz)」より 


「How To Effectively Engage Today’s B2B Consumer( Steve Casey,Forrester Research)」より

これは日本でも似たような状況があるのではないでしょうか。日本企業では未だに年功序列的・上意下達的な意思決定や承認プロセスがあることは否定できませんが、企業を構成する世代には“MILLENNIALS”が増えつつあります。彼らはすでに、SNS全盛時代の中にあり旧世代型のメディア広告には共感しにくくなっています。また、一時の芸能人ブログの“ステマ”騒動や、非医療関与者による大量生産ブログによる虚偽情報が氾濫した問題、“嫌儲”という言葉が生まれたことなども経験し、あからさまに何かを売りつけられるような行為には拒否反応を示す人も少なくないことでしょう。現在、高齢化社会の日本ではまだ“MILLENNIALS”的な購買を強く意識する機会が多くなかったとしても、意外にここ数年の世代交代でBtoB購買シーンも大きく変化するかもしれません。

日米ともに言えるのは、もはや売らんかな主義が見え透いたコミュニケーションは、早晩、意思決定層にたやすく喝破され遠ざけられてしまうということです。売り手と買い手という関係性の中でも、信用し合える間柄になっていれば、商品を提案されても「売りつけられている」とは感じずに、自分に必要なものを勧められていると感じるようになるというのです。まさに、「Turning fans into customers and customers into fans」です。では、そのようなコミュニケーションを図るにはどうすればよいのでしょうか?その答えとしては、「Personalize」が重要なキーワードとなるといいます。

「Millennial Mindset: How To Market, Collaborate & Connect With Digital Natives(Brian Fanzo,iSocialFanz)」より

2)B2BMX 2019の重要テーマ「Personalize」

「Personalize, personalize, personalize!」…これはB2BMX2019をレポートしたあるブログでの表現です。実際、数多くのセッションでParsonalizeが重要なテーマとして取り上げられていました。日本のマーケティングシーンでも、ここ数年間「パーソナライズ」はよく耳にする言葉かもしれません。しかし今、ことさらこの語を強調するのは、AmazonをはじめSpotify、Netflix やHuluがすばらしい体験を提供していることが指摘されています。これらのサービスは、自分に合わせた内容をいつでも、どこでも、デバイスを問わずに提供してくれる――。こうした顧客に寄り添ったサービスの普及は、週末の最大の娯楽であったBlockbuster(2000年代に盛況だった大規模レンタルビデオチェーン)を追い込むだけの大きなインパクトがあったと多くのセッションで語られました。

私たちは、デジタルの変革によって生まれた新しい体験をすでに好ましく受け止め、それはもはや生活の一部にすらなっています。このBtoCの分野で起きたデジタルの変革による体験を、BtoBの分野でも求め始めているのです。

ではBtoBの分野ではどのように、デジタル変革の力を活用してPersonalizeに取り組んでいくのか。それには各セッションにて異なる見解が示されていましたが、代表的な例としてThe Mx Group社のKellie de Leon氏のワークショップを紹介します。

Kellie de Leon氏ワークショップ風景 (引用元:https://twitter.com/Morgan_Kacie/status/1100082396022501377)

このワークショップのタイトルは「Making Buyer-Centric Marketing a Reality」で、買い手視点でマーケティングを考えることがテーマとして掲げられています。その概要は、Buyer-Centricとは何か、 Buyer Personaの設計、Best,Better,Good 3つのPersona(参考ブログ)、Buyer-CentricなWebサイトの作成方法、これらの内容を踏まえた上でPersonalizeする方法についての講義とワークでした。

Buyer Personaの設計については下記の「5-MINUTE BUYERS PERSONA」や「BUY CYCLE INSIGHTS」といったシートを通じてワークを行いました。簡易的にPersonaを設計し、Personaには①Best: Full scaleのPersona、②Better:TabletopのPersona、③Good:Experience & digital analyticsの三段階に分けられるとの解説がありました(詳細はMX Groupブログ参照)。実際には、Persona作成は複数の関与者への詳細インタビュー、購買プロセス、カスタマージャーニーの策定なども必要になるので、短時間でできるものではありませんし、Personaも単一ではありませんが、Personaの内面や購買プロセスやカスタマージャーニーにおける位置づけなどを明確にする過程を経て、Personalizeを目指すという考え方です。またPersonalizationには、CMS、e-Commerceの準備、Personalization SaaS、Marketing Automationなどと連携し、適したチャネルの準備、情報の配信、Webサイトに訪れるPersonaの精査やダイナミックコンテンツ配信など、デジタルの力を借りて行うことも数多いと言います。

本ワークショップでは全体の流れを確認するにとどまりましたが、その一手法としてBuyer-centric Websiteを考えるワークや、Buyer-centric Websiteにおける効果的なコンテンツ手法としてInteractiveコンテンツについても紹介がありました。こうしたコンテンツ手法についてはまた別途紹介する機会を持ちたいと思います。

  
▲セッション「Making Buyer-Centric Marketing a Reality」でのワークシート

森高 敦(Atsushi Moritaka) / 2BC, inc.