3つのキーワードで紐解くマーケティングの姿 – B2BMX2020より

今日のビジネスにおけるマーケティングの役割は、リードの発掘や潜在顧客の獲得にとどまらず、顧客を理解し、寄り添うことが求められています。KPIを追い求めるあまり、その施策が本来顧客の求めることと乖離している、つまり、顧客が置いてきぼりなっていないか、そういったことを自問自答する必要があるでしょう。

「B2BMX 2020」においても、真に顧客の課題を解決し、顧客の推進力となるようなマーケティングを求められていることが強調されていました。本ブログでは、Jay Acunzoによるキーノートセッション、『The New Plan A: How To Regain Clarity, Get Proactive & Do Exceptional Work Again』より、セッション内で紹介された

・Make a difference
・Superfan
・More human

という3つのキーワードに触れながら、マーケティングのあるべき姿について考えたいと思います。

Make a difference:マーケティングの目的

Acunzo氏は、マーケティングの目的は“Make a difference”、つまり、顧客に変化をもたらすことと明言しています。

例えば、ある企業が自社のマーケティング施策において、「リードを1,000件獲得する」など、数値や指標を目標とした時、それは指標として意味をなさなくなると説明しています。このような事例では、リード獲得に注力するあまり、「登録者には何らかのプレゼントを渡す」ことを強調し、顧客はそのブランドに興味がなくても登録フォームに記入する…結果、意味のない、不適格なリードができるだけ、とAcunzo氏は言います。事実、「グットハートの法則」でも、「数値自体や測定が目標となった場合、それは不適切な尺度となる」ことを示しており、数字を追い求めることが目的となると、本来の目的が見えなくなることの危険性が指摘されています。

そのため、数値は、顧客の変化に役立っているかの指標として利用すべきでしょう。上記の「リードを1,000件獲得する」という目標ではなく、「ポッドキャストなどのメディアを持つマーケターが抱える、3つの課題を解決するブログを作成する」といった目標設定が必要であり、獲得リードといった数値は「これらの目標に近づけているか」を検証するために用いるにとどめるべき…そうAcunzo氏は語ります。

これらの事例からわかる通り、マーケティングは顧客の変化をもたらすためにあるべきであり、「顧客の課題が前進したか」をKPIとするべきでしょう。そのためには、IKMC(I know my customer)の精神が必要であり、顧客を真に理解することが求められます。

Superfan:マーケティングを加速させる存在

続いて、Acunzo氏は下記の同心円を引き合いに出しながら、「円の外側、見知らぬ人の意識に焦点を合わせるのではなく、円の内側、“Superfan”にエネルギーを注ぐべき」とし、「“Superfan”は、円の外側の人に、無料で(!)、サービスの魅力を伝えてくれる」と説明します。


これは、「ファネル型」で顧客の意識・購買行動を説明するマーケティングモデルと共通しているでしょう。つまり、上記の“Superfan”は、下図の“Advocacy(支持者)”と同じと考えることができ、いずれも、周囲の人に自身が利用するサービスについて話し、広めてくれることが期待できます。

顧客の状況・ニーズを徹底的に理解し、顧客の成功を支援することが、結果として認知の獲得につながることになると考えられます。

それでは、“Superfan”をどのように獲得するべきでしょうか。
一つのヒントとして、「ファンダム(Fandom)マーケティング」があります。

「ファンダム」とは、「熱心な愛好者、ファンの集団が作る世界や文化」という意味があり、これらの熱狂的なファンの獲得を目標とするのがファンダムマーケティングになります。

国内では、川崎フロンターレが行なった施策が挙げられます。1997年に川崎フロンターレ(当時は富士通川崎フットボールクラブ)は元プロモーション部 部長、天野春香氏を採用し、天野氏を中心として様々な施策を行なったことが有名でしょう。そして、川崎フロンターレのプロモーション企画は、ホームタウンの川崎市に密着したものだったことに特徴があります。

川崎フロンターレの代表的な施策に、「川崎フロンターレ算数ドリル」があります。選手の全面的な協力のもと2009年から制作が始まり、現在も川崎市内の小学校に無償で提供されています。このドリルを使うことで、子どもたちとって川崎フロンターレは、スタジアムやテレビだけの存在ではなく、自分たちの生活に根ざした存在になるでしょう。計算が苦手でも算数に親しみを持つ子ども、選手やサッカーのことを話題にする子ども…子どもたちにとって、川崎フロンターレは身近な存在になり、彼らのことを考え、誰かに話したくなるかもしれません。

川崎フロンターレ オフィシャルサイト:川崎フロンターレ算数ドリル実践授業2020

プロスポーツ団体として、川崎フロンターレは「試合に勝つこと」、そして、「多くの注目を集めること」が求められています。一方、それは川崎フロンターレや在籍する選手だけの戦いではなく、地域に受け入れられることで初めて成り立つでしょう。上記のような様々な取り組みによって、川崎フロンターレは市民に受け入れられ、ファンを生み出し、より多くの認知・関心を獲得することが期待できます。

More human:マーケティングのあるべき姿

最後に、Acunzo氏のセッションより“More human”というキーワードを紹介します。

この言葉を和訳すると、ビジネスを「より人間らしく」行うことを意味しますが、これは、先の“Make a difference”というマーケティングの目的や、“Superfan”を生み出すにあたっての基本的な姿勢と言えるでしょう。何が“More human”と言えるのか、様々な解釈が可能ですが、Acunzo氏はビデオソフトウェア企業、Wistia社の事例を紹介しています。

Wistia社は2006年にChris SavageとBrendan Schwartzの2名が設立した企業で、マーケティングに用いるビデオソフトウェアを販売していました。彼らの事業は順調で、投資家からWistia社を買収したいという問い合わせを受けていたようです。多くのスタートアップ、ベンチャー企業がそうであるように、事業を成長させ、株式を公開・売却することは経営者にとっての一つの目的になるでしょう。

しかし、Wistia社は違いました。二人は「およそ1700万ドルの借金をしてWistia社を買い戻し」、「収益性が高く、自立したビジネスに再び集中した」と、Acunzo氏は説明します。また、Acunzo氏は、多くの企業が成長を追い求めるあまり、上図のファネルにある“Awareness(認知)”を獲得するための無謀な戦術を繰り広げることになる、と指摘します。

同じく、Wistia社の二人も、ブランドに対する「認知」ではなく、“Affinity(親和性)”に注力すべきと考えるようになりました。具体的には、これまで行なっていた、認知獲得のための1回限りのコンテンツを投下するのではなく、ブランドに対して親しみを持ってもらえるようなコンテンツのシリーズに投資をしています。

結果、Wistia社を買い戻してから、Wistia社がGoogleで検索される回数は月々10%増加し、年間の利益が600万ドルを超えています。ビジネスが無謀な成長を求めない、“More human”であること、認知でなく親和性を求めることこそ、本当の成長を達成できると考えることができます。

Wistia Inc. We’re Wistia

おわりに

Acunzo氏のセッションでは、明確に「こうすべき」であるといった、具体的な手法を伝えることはありませんでした。むしろ、小手先の技術ではなく、マーケティング、ひいてはビジネス全体のあり方について、「どのように向き合うべきか」のヒントを紹介してくれたと言えるでしょう。

そのため、彼のセッションを観た方は、自身の置かれた立場から様々な解釈することになるでしょう。しかし、ビジネスの成長を闇雲に追いかけることではなく、顧客を理解し、顧客の求めるものに向き合うこと、それにより、顧客の変化や成功に寄り添うことが必要である、というところは一致しているのではないでしょうか。

「B2BMX 2020」は最先端の魅力的なセッションが様々行われていました。他のセッションについては、別の記事でまたご紹介いたします。

岡村佳樹(Yoshiki Okamura)/2BC, inc.

B2B Sales & Marketing Exchange (#B2BSMX2019) イベントレポート(重点速報)

マーケティングと営業が一体化

「収益チーム」をいかにつくるか、を語る初のイベント

マサチューセッツ州ボストン。世界に名だたるハーバード大学とマサチューセッツ工科大学があるこの地に、約1000人のB2Bマーケターとセールスパーソンが集まりました。 

今回のイベントは、米国においてはかなり聞き慣れた3つのキーワードが取り上げられました。「ABM」と「Revenue Ops(収益チーム)」と「アライメント」です。

ABMやアライメントは、日米両国において、すでにバズワードではなくなったものの、むしろ静かにB2Bビジネス界に浸透してきています。その一方、「Revenue Ops(収益チーム)」は、米国ではかなり当たり前になってきたものの、日本ではまだ浸透が浅いのではないでしょうか。

 


Key Take Away

全体を通じて、収益に貢献することの重要性、そして戦略と手法が語られるイベントでしたが、キーノートだけでなく、米国における事例などを聞いていても、日本における活動に危機感を覚えるメッセージが多かったように思います。

収益に貢献し証明し続けることに柔軟にコミットできない人材は、どの職務内容においてもビジネスパートナーや、チームメンバーになれず、ただの実行者になってしまう、という点もその一つです。

また、米国ではすでに収益に貢献することを考えるマーケター、マーケティングオペレーター、カスタマーサクセスが置かれ始めています。それらのチームが「1~2年DXをやってきて、そのプロセスは60%くらい完了している」と考えている事実を目の当たりにしました。収益観点での貢献を証明できないと、​それくらい、自分の仕事が危ういわけです。

日本においても、改めて、各職種・職務の、収益に結びつく役割・スキルセット要件を定義し、収益チームを編成する必要があると感じました。


 

では、このイベントのポイントを見ていきましょう。

 

 マーケティング~営業の意識改革

マーケティングと営業は同じ収益に貢献する一つのチーム

 

 “マーケティングにいるということは、営業や、カスタマーサクセスまでを含むファネルの底までを収益視点で見ることである“ ~ Qaqish氏

今回、印象的だったのは、イベントの名称「Sales & Marketing Exchange」にもあるように、マーケティングと営業の意識改革にあります。

ABMに関する書籍を一番最初に出版したVajre氏は、彼の新著「ABM is B2B」にちなんだスライドでこの大きなイベントをキックオフしました

Vajre氏からサイン付きで頂いた同書にはこう記されています。

“ABM is an organisational strategy designed specifically to create more revenue. B2B marketing is an organisational strategy designed specifically to create more revenue” ~ Vajre氏

ABMはツールでも戦術でもなく、マーケティング、営業、カスタマーサクセスという一つの組織を成功に導くための組織的戦略であるとVajre氏はセッションでも述べています。つまり、ABMはB2Bにおいてある意味当然かつ既存のフレームワークであると言えるでしょう。 

マーケティングと営業の間の摩擦がある。仲が悪い。連携が上手くいかない。こういった問題が万国で共通しているのは、何か共通する原因があるからに違いありません。

Vajre氏は著書の中で、マーケティングと営業が突然腕を組んで仲良くすることが大事なのではないと記している。むしろ重要なのは、両者が同じ「収益」という指標を見ること、というのは、他の登壇者も共通して伝えている内容です。

そしてこのテーマに関して、Qaqish氏が彼女のセッション中に挙手方式で行ったSurveyが新鮮でした。

「マーケティングの方、挙手お願いします」

かなりの人数が手を上げる。

「では、営業の方!」

ちらほら手が挙がった。

「マーケティングは、営業でもあるでしょう!」とQaqish氏。

2日間のイベントを通じて、B2B マーケティング従事者の意識改革をさせるようなメッセージが多かった印象です。

 

リードだけを見ていては、効率的/効果的な収益貢献は困難

 

“収益を生むのはリードではなく、商機を構成する購買グループである。つまり、最初からリードではなく購買グループの商機をウォッチングすべき” ~ Forrester社 Cunningham氏 

「リード=個人」を追いかけていたら、ある日突然「商機=購買グループ」になっていたという事象は問題だと彼は言っています。

ではそれはなぜ問題なのでしょうか?

最大の理由はリードだけを見ていると、実は商機のある購買グループに気が付かないことがあるためです。

彼は次のうち最もホットな商機はどれかという問いかけをしました。

  1. One MQL=1件のMQLしか見えない購買グループ
  2. One MQL and One INQ*=1件のMQLと、1件のINQが見える購買グループ
  3. Four INQs=4件のINQが見える購買グループ

(*INQ=Inquiries)

どれが最もホットな商機でしょうか?

実は3番目のFour INQsが大きな商機を秘めている購買グループであるのに対し、我々が現状のシステム上で見ているものは、下図のようになってしまっているのです。つまり1と2は同じ程度に見え、なんと3は見えないのです。だからこそ、Cunningham氏は、早急に購買グループの見える化を推し進めるべきであると強調しました。

 システム上での見え方

ちなみにこのように、本当はホットな購買グループが見えなくなっている症状をCunningham氏は「Buying Group Blindness」と呼んでいます(定義は以下)。

Buying Group Blindness: A collection of symptoms – a syndrome – wherein marketing and sales organisations fail to identify and respond effectively to the group-level signals emitted by their buyers.

「購買グループに対する無理解」:次の症状の集合体、つまりシンドローム。マーケティングおよび営業組織が、バイヤーが発信するグループレベルのシグナルを効果的に特定して対応できていない状態 

「購買グループに対する無理解」の原因は次のとおりです。

    購買者はグループまたはチームであって、個人ではないこと

    B2Bのマーケティングチームはリードにフォーカスしているのに対し、営業は商機にフォーカスしており、つまり二者間で異なる目的と言語を保有してまっていること

    今日のシステムやプロセスにおいては、コールド商機からホット商機という管理がしづらいこと 

②はアライメントの課題なので、次の3つの要素での努力が必要です。

  • Strategic(戦略):組織のゴールとビジョンを揃える
  • Operational(オペレーション):ビジネス戦略、計画、インフラ、人材、データ、測定を揃える
  • Organisational(組織):ビジネス機能とそれを支える人的リソースを揃える

つまり、これらの認識が合っていないと、各組織は別の行動を取り始め、組織全体の効率性と効果が下がってしまうのです。 

③の解決に向けて比較的すぐに開始できる策としては、商談をつくるタイミングを早め、リードをクオリファイするのではなく、その商談をクオリファイしていくやり方です。もしある購買グループにいるメンバーが不足しているのであれば、既存のデータベースに、その購買グループに属しそうな人物がいないかを探索するなどでForresterのクライアントは対応しているとのことです。もし仮に既存データベースにいない場合は、既存の購買グループメンバーから、芋づる式にSDRが他のメンバーを見つけに行くというようなインサイドセールスの動きを取ることで、この商機の状態・状況を把握することができるでしょう。このようなスモールスタートを切るだけでも、これまで以上の効果と効率が得られるとCunningham氏は述べています。

マーケティングが初期段階から商機を意識し、かつ、自分たちのコンテンツや各活動努力がいかに商機に貢献したかを知ることは必須であるとCunningham氏は考えます。しかし、最初から我々が注目するものがリードではなく商機に変われば、これは当然のことにも思えるでしょう。 

このことに関して、Qaqish氏も「マーケティングに従事する者の報酬は、いずれ営業のそれと同様に、収益への貢献度によって決定されるものになることは避けられない」と強調していましたが、日本においては営業ですら、その形がとられていない組織も多いのが事実です。評価指標を見直す際は、営業とマーケティング両者のそれを同時に見直すのが近道かもしれません。 

 

マーケティングオペレーションの意識改革

「マーケティングオペレーター=ボタン押し役」の時代は終わった

 

Qaqish 氏は、マーケティングオペレーションは、ただツールが巧みに操作できるだけでは駄目で、オペレーションにおいても収益に貢献するというそもそものマインドと戦略的スキルが求められるようになっており、この傾向はさらに強まると言及しています。

標準的なマーケティングオペレーションと戦略的マーケティングオペレーションを次のように比較しています。

 では、「MarketingとMarketing Operationsの境界線が曖昧になってくるのでは?」と疑問が浮かぶかもしれません。

AppNata社のBohne氏も、彼女の事例セッションで、次のように語っています。 

“施策コンセプトやコンテンツ企画制作はマーケティングの役割であって、また、マーケティングオペレーションはもちろんそれらのツールへの落とし込みではあるが、ただ操作をするだけではなく、戦略的マーケティングオペレーションに向けて動き出している” ~ AppNata社Bohne氏

AppNata社のマーケティングの課題は、リードを超えて、カスタマーセントリックな活動を実現することにありました。だからこそ、この課題を解決し、収益につなげるために、GTMチームを編成しました。その中で、ツールの使い方、ツール同士のつなぎ方で、戦略的に考えるオペレーター(上図のBusiness Operations)が必要だと考えています。 

例えば、各施策をより効率よくかつ効果的に「収益」に貢献させるために、ABテストの必要性などを提示することが一つです。さらには、各活動の収益への貢献度を可視化しやすくするために、システム同士のつなぎ方をチームへ提案し、継続的な改善を推し進めることも、収益チームの一員としての戦略的役割として挙げられるでしょう。

以上、イベント全体を通して、キーメッセージと感じた部分をご紹介しました。各セッションの詳細についてはまた別途紹介する記事を書きたいと思います。

モナール園子(Sonoko MONARD) / 2BC, inc.

テックスタックにとらわれない重要性/SiriusDecisions Technology Exchange2018

膨張し続けるマーテックカテゴリ、テクノロジースタック

2019年4月4日の最新データ(マーケティングテクノロジーカオスマップ)によると、マーケティングテクノロジースタックのツールの市場総数はついに7千を超え、7,040にも登ります。

マーテックスタックのカテゴリーや、各カテゴリーに属するツールが増えつづける中、数ある中から自社に合ったものを選択しなければならないのは非常に骨の折れる作業です。

 

テックスタックの病「Categoritis™(カテゴライティス)」

SiriusDecisionsは、2018年11月に開催したTechnology Exchangeで、企業が抱えるテクノロジースタックの課題を「Categoritis™(カテゴライティス)」と名付け、その主症状を次のように説明しています。

 

Categoritisの4つの症状

SiriusDecisionsより日本語版作成

  • Bloated (膨張している):何用にあるか把握しきれていない、余計なテクノロジーを保有している
  • Incomplete (不完全である):目的を達成するために重要なテクノロジーが欠如
  • Siloed (サイロ化):データ同士につながりがなく、カスタマーエクスペリエンスが一つの流れとしてみえづらい
  • Out-dated (時代遅れ):今後のテクノロジースタックに組み込まれる時点で時代遅れになる可能性があるテクノロジーを保有している

そして、上記の副作用として、次のようなものが見受けられると述べています。

  • イノベーションの欠如
  • 無駄な予算とリソース
  • 長く扱いづらいプロセス
  • 非効率な問題回避策
  • カスタマーエンゲージメントの欠如
  • ROIが説明できずリプレースもできない

では、なぜこれらの症状が生じてしまったのでしょうか?

 

要件定義に問題があるケースがほとんど

〜ツールを選択する際に、どのような基準=要件定義で選定するかが成否を分ける〜

自社の提供する製品/サービスの価値を上げるというビジネスのリアルな要件を満たせるかどうか?」という基準ではなく、想定し得るツールやシステムのスペック、機能、UXなどの観点から購入を決定してしまいがちなことが、活用されないテックスタックの屍の原因です。

要件定義に問題が生じる原因には、経営戦略レイヤーから、組織のプロセスレイヤー、システムレイヤーまでがありますが、良くある例として次のようなものが挙げられます。

  • 経営戦略レイヤー

    • ビジネス要件自体が曖昧
    • テックスタック検討プロジェクトとビジネス目標が連携していない
  • 組織のプロセスレイヤー

    • マーケティングプライオリティ、営業、カスタマーサクセスのプライオリティの理解不足または要件に組み込めていない
    • マーケティングプライオリティ、営業、カスタマーサクセスのプライオリティ観点から、ツールを効果的に比較できていない
    • 社内プロセスをどうサポートするべきツールが必要かが不明確
    • チェンジマネジメントができない
  • システムレイヤー

    • 現在の既存システムの整理ができてない
    • テックスタック導入にあたってのROI試算ができない、または、曖昧
    • 契約内容の理解不足
    • テックスタック要件が長期的なビジネス戦略を支えていない
    • 機能的、技術的検証を行う効果的な仕組みがない
  • その他選定時の課題

    • 選定チームメンバーの構成が適正でない(マネジメントチームしかいない、または、エンドユーザーしかいないチームでの意思決定はあとで必ず問題になる)
    • ベンダー提供情報を信用しすぎる

上記にあるような課題をマーケティングの視点だけで解決するのは困難です。しかし、上記の多くは、以下のような理想パスを経ることで改善できるとSiriusDecisionsは述べています。

 

B2B企業のテクノロジーの病「Categoritis™」予防・治療プロセス

SiriusDecisionsTechStack

1.ビジネスにおける優先順位を定義

  • ビジネスの優先順位は何だろうか?ビジネスに求められる結果は何だろうか?

2. ビジネス要件を特定

  • ビジネス要件に求められる行動、活動、アビリティは何か?

3.テクノロジーへマッピング

  • どのカテゴリのテクノロジーがビジネス要件を満たせるだろうか?

上記のプロセスを行うことで、ビジネス優先順位に則したゴール設定が可能になり、ブレのないテックスタックロードマップを描くことができます。また、現行システムとのギャップが明確になり、重複機能なども洗い出せ、二重投資などのムダも防止できるとSiriusDecisionsは述べています。

 

テックウェルネスを目指すマッピングツール

SiriusDecisionsはB2B組織がテクノロジーをビジネス要件と一致させるためのツールとして、「Tech Stack on a Page」をTechnology Exchange2018で発表しました。組織の戦略を実現するために必要な要件は何か、またそれら要件を支えるテクノロジーのカテゴリーはどれかを検討する際に、視覚的サポートを提供するものです。

Tech Stack on a Page

ただ、この3段階の理想パスを誰もがうまく通過できるかというと、必ずしもそう言い切れないのではないでしょうか。

 

あるべき姿を描く難しさ

ビジネスの優先順位を整理する際、まずはあるべき姿が描ける必要性があり、それには構想力ビジネス環境変化の認識などが不可欠になります。マーケティング・営業の役割が描けているか、そして、今日のそれら部門の役割が描けているか、などが重要になります。例えば営業の役割が売り切りの「売上」というゴールだけでなく、継続的な関係を顧客と築くカスタマーサクセスのような要素にまで拡張される必要性がある、など、その時代のパラダイム変化に伴う、顧客のニーズを認識できているかどうかが肝心です。

 

現状分析し、あるべき姿とのギャップを見出す難しさ

次に、わかりやすいようで、なかなか新しい目で見ずらいのが現状分析です。また、あるべき姿と現状は描けても、そのギャップの整理ができないことも。ここで重要なのは、ギャップを構造化し、優先順位をつけることです。

あるべき姿と現状のギャップが整理できても解決策が間違っている可能性もあります。その原因としては、

  • 起きている事象に対する根本原因が深掘りできておらず、表面的な解にたどり着いてしまっている
  • 優先順位付けができず、全部に取り組んでしまい、中途半端な結果となる
  • 解決策や現状リソース起点で問題を整理しているために、解決できる問題から取り組んでしまうこと

などが挙げられます。

テクノロジーの目的は、その利活用を通じての戦略支援であり、導入ではありません。したがって、あるべき姿や現状をよく整理し、ギャップを構造化してビジネスの優先順位をつけるフェーズは、テクノロジーベンダーのカタログを比較するフェーズよりもはるかに重要なフェーズであることは明らかでしょう。

モナール園子(Sonoko MONARD) / 2BC, inc.

B2BMX2019に見る、これからのコミュニケーションのあり方

2019年2月25日〜28日にかけて、米国BtoBマーケティングイベントの1つ「B2B Marketing Exchange 2019(B2BMX 2019)」に参加しました。本ブログでは、B2BMX2019にて取り上げられていたBtoBマーケティングにおけるコミュニケーションに関するキーワードを紹介するとともに、日本での実情と合わせて考えます。

1)デジタル世代の台頭とコミュニケーションのあり方

B2BMX2019には、マーケティングとデジタルトランスフォーメーション(DX)が不可分になっている今、新たなレンズでBtoBマーケティングを見通すということで「SEE B2B MARKETING THROUGH A NEW LENS」という副題がつけられています。Digital Chaosとも呼ばれる現代社会ですが、B2BMX2019でのキーワードは意外にもEmotion、Conversation、Relivance、Proximity、Funなど“人間的”なキーワードが並びました。これからのBtoBマーケティングにおけるコミュニケーションは、デジタル×人間という両者の融合(とその配分)で変化していくことが予見されるテーマです。

B2BMX2019のセッションは、「Content」、「Demand Gen」、「Digital Strategy」、「ABM」、「Sales Impact」、「Channel」、「General Session」というカテゴリに分類されています。特にコミュニケーション/コンテンツに強みを持つ企業が主催者側にいることから、コミュニケーション設計やコンテンツ企画・制作に携わる担当者が数多く参加していたようです。ちなみに2BCでは、BtoBマーケティング及びセールスにおけるコミュニケーションやコンテンツについて、「コミュニケーション設計(コンテンツ開発)」、「コンテンツ企画」、「コンテンツ制作」の3階層に分けて考えていますが、このうちコミュニケーション設計とコンテンツ企画に関する内容を中心に紹介していきます。(参考:Engagement Strategy

 

Break Free Of Boring B2B With Interactive Influencer Content(Lee Odden,TopRank Marketing」より

「BtoBは“Boring to Boring”ではない」という強烈なメッセージからはじまるTopRank Marketing社のセッションに象徴されるように、今回のイベントではBtoBマーケティングにおける“退屈な”コミュニケーションから変革する時が訪れていることを感じさせる内容が数多く見られました。

ほかにも「CustomerからB2B Consumerへ」、「FANDOM / Turning fans into customers and customers into fans」というように、顧客像/買い手像の再構築が始まっていることをうかがわせるキーワードにあふれていました。それは、顧客像/買い手像は無機的で形而上の存在ではなく、血肉を持った人間像としてとらえ直すことが、新しいBtoBマーケティング/セールスでのコミュニケーションのあり方と言えるのでしょう。

米国では近年、MILLENNIALS(ミレニアル世代:80年初〜90年代生まれのデジタルへの共感性が高い世代)が企業の購買決定や意思決定を担うようになり、BtoB企業での購買にも大きな影響を及ぼすことが社会的に話題となっています。その世代の特徴として挙げられるのが、オンライン/オフラインのコンテンツに分け隔てなく接する、広告にはうんざりしている(いかにも売りつけようとしてくる広告は見たくもない)、資料が欲しくてもフォーム入力はしたくない(別の方法を探す)というような例がいくつも挙げられました。一方で、「自身の発言を受け入れてほしい、何かの一部に所属していることを感じたい」という側面もあると指摘されています。そのため、彼らにとって望ましいコミュニケーションとは、関連性の高い情報の提供(Relevance)、対話的であること(MonologueからDialogueへ)、会話しながら話を進めること(Conversations Are Critical)とも指摘されています。

 
「Millennial Mindset: How To Market, Collaborate & Connect With Digital Natives(Brian Fanzo,iSocialFanz)」より 


「How To Effectively Engage Today’s B2B Consumer( Steve Casey,Forrester Research)」より

これは日本でも似たような状況があるのではないでしょうか。日本企業では未だに年功序列的・上意下達的な意思決定や承認プロセスがあることは否定できませんが、企業を構成する世代には“MILLENNIALS”が増えつつあります。彼らはすでに、SNS全盛時代の中にあり旧世代型のメディア広告には共感しにくくなっています。また、一時の芸能人ブログの“ステマ”騒動や、非医療関与者による大量生産ブログによる虚偽情報が氾濫した問題、“嫌儲”という言葉が生まれたことなども経験し、あからさまに何かを売りつけられるような行為には拒否反応を示す人も少なくないことでしょう。現在、高齢化社会の日本ではまだ“MILLENNIALS”的な購買を強く意識する機会が多くなかったとしても、意外にここ数年の世代交代でBtoB購買シーンも大きく変化するかもしれません。

日米ともに言えるのは、もはや売らんかな主義が見え透いたコミュニケーションは、早晩、意思決定層にたやすく喝破され遠ざけられてしまうということです。売り手と買い手という関係性の中でも、信用し合える間柄になっていれば、商品を提案されても「売りつけられている」とは感じずに、自分に必要なものを勧められていると感じるようになるというのです。まさに、「Turning fans into customers and customers into fans」です。では、そのようなコミュニケーションを図るにはどうすればよいのでしょうか?その答えとしては、「Personalize」が重要なキーワードとなるといいます。

「Millennial Mindset: How To Market, Collaborate & Connect With Digital Natives(Brian Fanzo,iSocialFanz)」より

2)B2BMX 2019の重要テーマ「Personalize」

「Personalize, personalize, personalize!」…これはB2BMX2019をレポートしたあるブログでの表現です。実際、数多くのセッションでParsonalizeが重要なテーマとして取り上げられていました。日本のマーケティングシーンでも、ここ数年間「パーソナライズ」はよく耳にする言葉かもしれません。しかし今、ことさらこの語を強調するのは、AmazonをはじめSpotify、Netflix やHuluがすばらしい体験を提供していることが指摘されています。これらのサービスは、自分に合わせた内容をいつでも、どこでも、デバイスを問わずに提供してくれる――。こうした顧客に寄り添ったサービスの普及は、週末の最大の娯楽であったBlockbuster(2000年代に盛況だった大規模レンタルビデオチェーン)を追い込むだけの大きなインパクトがあったと多くのセッションで語られました。

私たちは、デジタルの変革によって生まれた新しい体験をすでに好ましく受け止め、それはもはや生活の一部にすらなっています。このBtoCの分野で起きたデジタルの変革による体験を、BtoBの分野でも求め始めているのです。

ではBtoBの分野ではどのように、デジタル変革の力を活用してPersonalizeに取り組んでいくのか。それには各セッションにて異なる見解が示されていましたが、代表的な例としてThe Mx Group社のKellie de Leon氏のワークショップを紹介します。

Kellie de Leon氏ワークショップ風景 (引用元:https://twitter.com/Morgan_Kacie/status/1100082396022501377)

このワークショップのタイトルは「Making Buyer-Centric Marketing a Reality」で、買い手視点でマーケティングを考えることがテーマとして掲げられています。その概要は、Buyer-Centricとは何か、 Buyer Personaの設計、Best,Better,Good 3つのPersona(参考ブログ)、Buyer-CentricなWebサイトの作成方法、これらの内容を踏まえた上でPersonalizeする方法についての講義とワークでした。

Buyer Personaの設計については下記の「5-MINUTE BUYERS PERSONA」や「BUY CYCLE INSIGHTS」といったシートを通じてワークを行いました。簡易的にPersonaを設計し、Personaには①Best: Full scaleのPersona、②Better:TabletopのPersona、③Good:Experience & digital analyticsの三段階に分けられるとの解説がありました(詳細はMX Groupブログ参照)。実際には、Persona作成は複数の関与者への詳細インタビュー、購買プロセス、カスタマージャーニーの策定なども必要になるので、短時間でできるものではありませんし、Personaも単一ではありませんが、Personaの内面や購買プロセスやカスタマージャーニーにおける位置づけなどを明確にする過程を経て、Personalizeを目指すという考え方です。またPersonalizationには、CMS、e-Commerceの準備、Personalization SaaS、Marketing Automationなどと連携し、適したチャネルの準備、情報の配信、Webサイトに訪れるPersonaの精査やダイナミックコンテンツ配信など、デジタルの力を借りて行うことも数多いと言います。

本ワークショップでは全体の流れを確認するにとどまりましたが、その一手法としてBuyer-centric Websiteを考えるワークや、Buyer-centric Websiteにおける効果的なコンテンツ手法としてInteractiveコンテンツについても紹介がありました。こうしたコンテンツ手法についてはまた別途紹介する機会を持ちたいと思います。

  
▲セッション「Making Buyer-Centric Marketing a Reality」でのワークシート

森高 敦(Atsushi Moritaka) / 2BC, inc.