対話的なコンテンツ、双方向的なコンテンツ―― B2BMX2019より

過去ブログ「B2BMX2019に見る、これからのコミュニケーションのあり方」では、BtoBマーケティングのコミュニケーションにおいて、これからはさらに「Personalize」を重要視すべきとの指摘を紹介しました。今回はコンテンツの手法を中心に取り上げますが、コンテンツももちろんPersonalizeの視点が欠かせません。本ブログでは、そのためにどのようなコンテンツ手法があるのか、B2B MX2019の内容を中心に解説します。ちなみに、2BCのEngagement Strategyでいうと、コミュニケーション設計(コンテンツ開発)からコンテンツ企画にかけての範囲になります。

はじめに

BtoBマーケティングとセールスにおける「コンテンツ」とは、買い手のペルソナや購買プロセス、コミュニケーション設計から導き出されるものです。例えばSiriusDecision社は下図「コンテンツストラテジーの考え方(2BC意訳)」では買い手の意識の変遷と、買い手の状態におけるコンテンツ内容について整理しています。また、図「B-to-B Buying Decision Process Framework」は、買い手の状態をEducation、Solution、Selectionと3つに分けて、それぞれの状態に適したコミュニケーションを考えるためのフレームワークです。コミュニケーションを考える時に、買い手の立場に立つという基本的な考え方は大きく変わるものではありませんが、コンテンツ手法は時代の変化やツールの進化などにより、常に最適解が模索されています。今回はその中でも「Personalize」という観点から、買い手に寄り添うためのコンテンツ手法について注目しました。

  

 

1)会話型・対話型のコンテンツ

「会話は『問い』と『答え』からできている。同じ部屋にいるかのように、相手を身近に感じながら語りかけることが大事。『どうしたの?何があったの?』と尋ねるように」――こう語るのはMarketing Interactions社のArdath Albee氏。コンテンツがあふれかえる現在、一方通行的なメールやWebサイトを淡々と埋め尽くすプロダクト情報は、売り手と買い手のコミュニケーションを分断してしまわないか?と懸念を示しています。

Albee氏は「『対話』こそがエンゲージメントのための仕組み」であると訴えます。対話とは「The Askから始まるもの」で、まず買い手からの問いかけ(The Ask)が生じたら、その回答となるコンテンツを対話的につなげていくことが必要と語ります。このような問いかけと回答からなる対話のピースが一連の流れを作るような状態が重要と下図を用いて解説しています。

ところで「The Ask」で始まる、世界で最も有名なサイトとは何でしょうか?それは、「Google」のトップページだとか。確かに、ユーザーが何をすべきかひと目でわかる、迷いなく利用できるページです。

2)インタラクティブコンテンツ(Interactive Content)

注目すべきコンテンツ手法の1つとして、インタラクティブコンテンツ(interactive:対話型の、双方向性の)が挙げられています。その理由としては、「コンバージョンが静的コンテンツの2倍になる(The MX Group)」、「成功しているB2Bマーケターはよりビジュアル的でインタラクティブなコンテンツ体験を提供している(TopRank Marketing)」といったことなどが述べられています。

Break Free Of Boring B2B With Interactive Influencer Content(Lee Odden,TopRank Marketing)」より

では、インタラクティブコンテンツとはどのようなものでしょうか。TopRank Marketingは、インタラクティブコンテンツについてTop of Funnel(購買プロセスの初期)と、Middle of Funnel・End of Funnel(購買プロセスの中期〜後期・営業や購買時期)で分けて、それぞれ適切なコンテンツの例を挙げています。

 

Top of Funnelでは、コンテスト(ランキングなど)、ゲーム、クイズ、インタラクティブなインフォグラフィックス、アセスメント(チェックシート)などを例に挙げています。つまり、気軽に誰でも参加しやすい、一般的にわかりやすいと思われるコンテンツです。

Middle of Funnel・End of Funnelでは、試算ページ(損得計算、導入費用シミュレーション等)、インタラクティブホワイトペーパー/eBook(動画、リアルタイム統計結果など動的な要素を含む)、インタラクティブビデオ(クリッカブルで必要な情報を参照したり、選択したりしながら閲覧できる)、ウィザード型ページ(入力しやすいフォーム)、製品コンフィギュレータ(プロダクトコンフィギュレータ:製品画像を360度詳細を見たりできるようなページ)などを挙げました。こちらは購買を検討する際に必要なより詳細、具体的で買い手側が求める情報を得やすいコンテンツといえます。

 

またThe MXGroupも、ファネルごとの7つのタイプのインタラクティブコンテンツを挙げています。こちらも見てみましょう。

Why Interactive Content Matters: The New Buyer’s Journey 」The MXGroupより

<UPPER FUNNEL(購買プロセス初期)>
①情報の可視化:
グラフ、チャート、マップなどで市場調査やアンケート結果などを可視化。買い手側の業界やビジネスの現状、自社の実情などを俯瞰できるコンテンツです。

②アセスメント、チェック/自己診断:
アセスメントやチェック、自己診断を行います。買い手のビジネス上の課題の特定に役立ち、解決のためのステップが示唆されているようなコンテンツです。

<MID-FUNNEL(購買プロセス中期)>
③デモ:
Webサイトでのシミュレーション、動画なども含むデモを指します。買い手がその製品の価値を見極めるためには不可欠のコンテンツです。

④試算、導入試算シミュレーション:
製品の比較や稟議が近づくと、製品予算の詳細を考えなければなりません。そのような時に、製品の購入金額や経済効果などが試算できるシミュレータがあると便利でしょう。

<LOWER-FUNNEL(購買プロセス後記〜ここでは購買後も含む)>
⑤製品コンフィギュレータ:
製品を内容やスペックを具体的に知るためのコンテンツは重要です。自社が購入しようとしている製品を間違いなく購入することや、購入数などを明確にします。

⑥購買ページ、お試し利用申し込みページ:
購買がオンラインで済むものならば、済ませてしまった方が楽で便利と多くの人が考えることでしょう。また、最近はフリートライアルからスタートするサービスも増えています。こうした購買またはフリートライアル申し込みのための受け皿としてのページが必要になってきています。

<購買後、製品利用フェーズ>
⑦ゲーミフィケーション:
買い手が購買した後にも関係性を継続するための施策が必要です。そのため、製品/サービスなどを利用することでポイントなどの報酬が発生したり、社内で競争してランキング付けするなど“ゲーム感覚”で利用を促進できると考えられます。

※さらに詳細を知りたい方は、The MXGroupのebook「Engage & Convert With Interactive Content」を推奨。

インタラクティブコンテンツは、買い手が参加することで「自分のためのコンテンツ(Personalizeされたコンテンツ)」となることが、その本質で重要なポイントではないでしょうか。

おわりに

今回、対話型、双方向性という観点でのコンテンツ手法を紹介しました。市場調査やアンケートの結果を伝えるコンテンツ、チェックと診断コンテンツ、見積もりシミュレーションなどのコンテンツは、すでに日本においても数多く活用され、その有用さは折り紙付きです。こうしたコンテンツを活用することで、買い手との“対話”は円滑に進められるようになることでしょう。

ただ、今回コンテンツ手法を中心に紹介しましたが、重要なのは「最初にコンテンツを考えるべきではない」ということ。

「次はどのようなコンテンツが必要か」「今度はインタラクティブコンテンツを作ろう」「コラムがもっと必要」「ダウンロードされやすいホワイトペーパーを用意しなければ」「オウンドメディアを作りたい」…と考えるのはたやすいことです。しかし、最も重要なことは、買い手がどのような人(企業)で何を求めているのかを考え、どうすれば課題解決や目的達成できるか、その人物像や道のりを考えた上で、コミュニケーション設計を行い、コンテンツに落とし込んでいくことです。コンテンツは、買い手が課題解決などのゴールへの道のりをガイドするための一つの要素に過ぎません。

売り手と買い手とのコミュニケーションを考える上で、適切なタイミングに、適切なチャネルで、適切なコンテンツを提供するという基本的なことは何ら変わりません。買い手が迷わずにゴールに進むために必要なものであってこそ、対話的なコンテンツ、双方向的なコンテンツは力を発揮することでしょう。

森高 敦(Atsushi Moritaka) / 2BC, inc.

B2B Sales & Marketing Exchange (#B2BSMX2019) イベントレポート(重点速報)

マーケティングと営業が一体化

「収益チーム」をいかにつくるか、を語る初のイベント

マサチューセッツ州ボストン。世界に名だたるハーバード大学とマサチューセッツ工科大学があるこの地に、約1000人のB2Bマーケターとセールスパーソンが集まりました。 

今回のイベントは、米国においてはかなり聞き慣れた3つのキーワードが取り上げられました。「ABM」と「Revenue Ops(収益チーム)」と「アライメント」です。

ABMやアライメントは、日米両国において、すでにバズワードではなくなったものの、むしろ静かにB2Bビジネス界に浸透してきています。その一方、「Revenue Ops(収益チーム)」は、米国ではかなり当たり前になってきたものの、日本ではまだ浸透が浅いのではないでしょうか。

 


Key Take Away

全体を通じて、収益に貢献することの重要性、そして戦略と手法が語られるイベントでしたが、キーノートだけでなく、米国における事例などを聞いていても、日本における活動に危機感を覚えるメッセージが多かったように思います。

収益に貢献し証明し続けることに柔軟にコミットできない人材は、どの職務内容においてもビジネスパートナーや、チームメンバーになれず、ただの実行者になってしまう、という点もその一つです。

また、米国ではすでに収益に貢献することを考えるマーケター、マーケティングオペレーター、カスタマーサクセスが置かれ始めています。それらのチームが「1~2年DXをやってきて、そのプロセスは60%くらい完了している」と考えている事実を目の当たりにしました。収益観点での貢献を証明できないと、​それくらい、自分の仕事が危ういわけです。

日本においても、改めて、各職種・職務の、収益に結びつく役割・スキルセット要件を定義し、収益チームを編成する必要があると感じました。


 

では、このイベントのポイントを見ていきましょう。

 

 マーケティング~営業の意識改革

マーケティングと営業は同じ収益に貢献する一つのチーム

 

 “マーケティングにいるということは、営業や、カスタマーサクセスまでを含むファネルの底までを収益視点で見ることである“ ~ Qaqish氏

今回、印象的だったのは、イベントの名称「Sales & Marketing Exchange」にもあるように、マーケティングと営業の意識改革にあります。

ABMに関する書籍を一番最初に出版したVajre氏は、彼の新著「ABM is B2B」にちなんだスライドでこの大きなイベントをキックオフしました

Vajre氏からサイン付きで頂いた同書にはこう記されています。

“ABM is an organisational strategy designed specifically to create more revenue. B2B marketing is an organisational strategy designed specifically to create more revenue” ~ Vajre氏

ABMはツールでも戦術でもなく、マーケティング、営業、カスタマーサクセスという一つの組織を成功に導くための組織的戦略であるとVajre氏はセッションでも述べています。つまり、ABMはB2Bにおいてある意味当然かつ既存のフレームワークであると言えるでしょう。 

マーケティングと営業の間の摩擦がある。仲が悪い。連携が上手くいかない。こういった問題が万国で共通しているのは、何か共通する原因があるからに違いありません。

Vajre氏は著書の中で、マーケティングと営業が突然腕を組んで仲良くすることが大事なのではないと記している。むしろ重要なのは、両者が同じ「収益」という指標を見ること、というのは、他の登壇者も共通して伝えている内容です。

そしてこのテーマに関して、Qaqish氏が彼女のセッション中に挙手方式で行ったSurveyが新鮮でした。

「マーケティングの方、挙手お願いします」

かなりの人数が手を上げる。

「では、営業の方!」

ちらほら手が挙がった。

「マーケティングは、営業でもあるでしょう!」とQaqish氏。

2日間のイベントを通じて、B2B マーケティング従事者の意識改革をさせるようなメッセージが多かった印象です。

 

リードだけを見ていては、効率的/効果的な収益貢献は困難

 

“収益を生むのはリードではなく、商機を構成する購買グループである。つまり、最初からリードではなく購買グループの商機をウォッチングすべき” ~ Forrester社 Cunningham氏 

「リード=個人」を追いかけていたら、ある日突然「商機=購買グループ」になっていたという事象は問題だと彼は言っています。

ではそれはなぜ問題なのでしょうか?

最大の理由はリードだけを見ていると、実は商機のある購買グループに気が付かないことがあるためです。

彼は次のうち最もホットな商機はどれかという問いかけをしました。

  1. One MQL=1件のMQLしか見えない購買グループ
  2. One MQL and One INQ*=1件のMQLと、1件のINQが見える購買グループ
  3. Four INQs=4件のINQが見える購買グループ

(*INQ=Inquiries)

どれが最もホットな商機でしょうか?

実は3番目のFour INQsが大きな商機を秘めている購買グループであるのに対し、我々が現状のシステム上で見ているものは、下図のようになってしまっているのです。つまり1と2は同じ程度に見え、なんと3は見えないのです。だからこそ、Cunningham氏は、早急に購買グループの見える化を推し進めるべきであると強調しました。

 システム上での見え方

ちなみにこのように、本当はホットな購買グループが見えなくなっている症状をCunningham氏は「Buying Group Blindness」と呼んでいます(定義は以下)。

Buying Group Blindness: A collection of symptoms – a syndrome – wherein marketing and sales organisations fail to identify and respond effectively to the group-level signals emitted by their buyers.

「購買グループに対する無理解」:次の症状の集合体、つまりシンドローム。マーケティングおよび営業組織が、バイヤーが発信するグループレベルのシグナルを効果的に特定して対応できていない状態 

「購買グループに対する無理解」の原因は次のとおりです。

    購買者はグループまたはチームであって、個人ではないこと

    B2Bのマーケティングチームはリードにフォーカスしているのに対し、営業は商機にフォーカスしており、つまり二者間で異なる目的と言語を保有してまっていること

    今日のシステムやプロセスにおいては、コールド商機からホット商機という管理がしづらいこと 

②はアライメントの課題なので、次の3つの要素での努力が必要です。

  • Strategic(戦略):組織のゴールとビジョンを揃える
  • Operational(オペレーション):ビジネス戦略、計画、インフラ、人材、データ、測定を揃える
  • Organisational(組織):ビジネス機能とそれを支える人的リソースを揃える

つまり、これらの認識が合っていないと、各組織は別の行動を取り始め、組織全体の効率性と効果が下がってしまうのです。 

③の解決に向けて比較的すぐに開始できる策としては、商談をつくるタイミングを早め、リードをクオリファイするのではなく、その商談をクオリファイしていくやり方です。もしある購買グループにいるメンバーが不足しているのであれば、既存のデータベースに、その購買グループに属しそうな人物がいないかを探索するなどでForresterのクライアントは対応しているとのことです。もし仮に既存データベースにいない場合は、既存の購買グループメンバーから、芋づる式にSDRが他のメンバーを見つけに行くというようなインサイドセールスの動きを取ることで、この商機の状態・状況を把握することができるでしょう。このようなスモールスタートを切るだけでも、これまで以上の効果と効率が得られるとCunningham氏は述べています。

マーケティングが初期段階から商機を意識し、かつ、自分たちのコンテンツや各活動努力がいかに商機に貢献したかを知ることは必須であるとCunningham氏は考えます。しかし、最初から我々が注目するものがリードではなく商機に変われば、これは当然のことにも思えるでしょう。 

このことに関して、Qaqish氏も「マーケティングに従事する者の報酬は、いずれ営業のそれと同様に、収益への貢献度によって決定されるものになることは避けられない」と強調していましたが、日本においては営業ですら、その形がとられていない組織も多いのが事実です。評価指標を見直す際は、営業とマーケティング両者のそれを同時に見直すのが近道かもしれません。 

 

マーケティングオペレーションの意識改革

「マーケティングオペレーター=ボタン押し役」の時代は終わった

 

Qaqish 氏は、マーケティングオペレーションは、ただツールが巧みに操作できるだけでは駄目で、オペレーションにおいても収益に貢献するというそもそものマインドと戦略的スキルが求められるようになっており、この傾向はさらに強まると言及しています。

標準的なマーケティングオペレーションと戦略的マーケティングオペレーションを次のように比較しています。

 では、「MarketingとMarketing Operationsの境界線が曖昧になってくるのでは?」と疑問が浮かぶかもしれません。

AppNata社のBohne氏も、彼女の事例セッションで、次のように語っています。 

“施策コンセプトやコンテンツ企画制作はマーケティングの役割であって、また、マーケティングオペレーションはもちろんそれらのツールへの落とし込みではあるが、ただ操作をするだけではなく、戦略的マーケティングオペレーションに向けて動き出している” ~ AppNata社Bohne氏

AppNata社のマーケティングの課題は、リードを超えて、カスタマーセントリックな活動を実現することにありました。だからこそ、この課題を解決し、収益につなげるために、GTMチームを編成しました。その中で、ツールの使い方、ツール同士のつなぎ方で、戦略的に考えるオペレーター(上図のBusiness Operations)が必要だと考えています。 

例えば、各施策をより効率よくかつ効果的に「収益」に貢献させるために、ABテストの必要性などを提示することが一つです。さらには、各活動の収益への貢献度を可視化しやすくするために、システム同士のつなぎ方をチームへ提案し、継続的な改善を推し進めることも、収益チームの一員としての戦略的役割として挙げられるでしょう。

以上、イベント全体を通して、キーメッセージと感じた部分をご紹介しました。各セッションの詳細についてはまた別途紹介する記事を書きたいと思います。

モナール園子(Sonoko MONARD) / 2BC, inc.