ABM実践の準備を通して、マーケティングを次のレベルへ
 ~ABM準備フェーズにおける基礎的要素とアセスメントフレームワーク~

シンガポールで開催されたSiriusDecisionsが主催するBtoBマーケティングのAPACリージョナルイベント「SiriusDecisions 2017 Summit APAC」へ参加してきました。本記事では、ABM(Account Based Marketing)についてのセッションを、私の感想・考えと共にご紹介します。

「SiriusDecisions 2017 Summit APAC」イベント概要レポートはこちら

 

今なおバズっており、多くの企業が実践フェーズに移行しつつあるABM

BtoBマーケティングのトレンドワードとしてにわかに広まり、いまや知らない/興味のないマーケターはいないといっても過言ではないABM。ABMの定義付け、鉄則、事例はまだまだ十分とは言えませんが、世界中の経営者やCMOの注目と期待を集めています。

日本においても、ABMの専門書籍が出版され、世界的なマーケティングアワードであるMarkieAwardのABM部門でNEC社がファイナリストとなり、ABMの実践を支援するテクノロジー/ソリューションベンダーが急増するなど、単なるトレンドワードではなく、実践出来る土壌が整ってきています。

当社のクライアントワークにおいても、実証実験フェーズと位置付けたABMの取り組みが急増しています。

ABMは“日本向き”?

マーケティング後進国と言われる日本においてですが、ABMの概念は、比較的早期に、好意的に受け入れられている印象を受けています。

その理由は以下の2つであると私は推察しています。

  • マーケティングリソースの慢性的な不足

多くの企業が、「マーケティング部門のリソース(人手や予算)は十分ですか?」と問えば、“いいえ”と答えるでしょう。考えうる全てのターゲットセグメントに対しての多くのチャネルを活用したマーケティングコミュニケーションの実践は、多くの企業の逼迫したマーケティングリソース状況においては非現実的です。

本セッションにおいても、以下のように述べられていました。
“日本を含めたAPACのマーケティング環境は、成長率/成長期待率は高いものの、マーケティングリソースは不十分であるケースが多く、リソース配賦の優先順位付け、選択集中が重要であり、とりわけABMがそのソリューションとなり得やすい”

  • 営業と顧客の強固なリレーションを重視する営業組織

古来から、日本企業は、営業担当と顧客のOneToOneの関係性を重視するスタイルをとっています。顧客を知り、顧客に尽くし、顧客にとって特別な存在であり続ける営業(組織)を理想とする傾向にあり、顧客を軸としたセールス&マーケティングを実践するABMの概念はすんなりと受け入れられる可能性が高いでしょう。むしろ、「ABMなんてどこが新しいの?」と感じる経営者や営業部門責任者の方も多いのではないでしょうか。

SiriusDecisionsのABM専任Research DirectorであるNicky Briggs氏も、“日本は営業と顧客との関係が強いため、ABMに向いている国と言えるでしょう”と述べており、日本の一つの特徴と言えるのではないでしょうか。

ABMは特定顧客(群)とOneToOneのマーケティング&セールスコミュニケーションを行うことを前提とした概念ですので、この特徴は、ABMを実践する上での関係部門の理解、連携をスムーズに進められる土壌となるでしょう。

ABMを成功に導く準備方法

本セッションでは、「ABMはしばしば、組織として十分な準備が整えられていない状態で実践されている」と指摘し、“ABMは、戦術的なものではなく、一回限りのイニシアチブでもありません。これは、より組織的な連携をもたらす規律です”と表現しています。

“If your cake is burnt, you can put all of the cherries you like, but it’s not going to make it taste good.”
“ケーキが焦げていれば(基礎要素が揃っていなければ)、その上にあなたが好きなサクランボをどんなに乗せたとしても(ABM施策をどう実施しても)、そのケーキは美味しくならない(成果は生み出せない)”

 

その解決策として、ABM実践準備における基礎的要素とそのアセスメントのためのフレームワークが公開されました。

ABM成功のための組織の準備プロセス、潜在的な盲点を可視化するためのアセスメントのフレームワークです。

私の理解による意訳・解説は以下の通りです。

  • Organizational Fit
    • 組織全体、また営業部門の戦略に、マーケティング部門の戦略が適切に接続出来ているか?
    • その地域の文化・顧客・顧客と営業の関係に応じて、戦略が最適化されているか?
    • ABMに対する営業部門とマーケティング部門それぞれのリーダーのコミットとサポートを得られているか?
  • Marketing Readiness
    • リードマネジメントやマーケティング施策の実行/管理プロセスは構築出来ているか?
    • 対象アカウント(群)の顧客購買プロセスとペルソナが描かれた上で、それに基づいたコンテンツが用意されているか?
    • 創出される商談と売上の測定プロセスは構築出来ているか?
  • Sales Readiness
    • 営業とマーケティングのマネジメントレベルでの連携、業務オペレーションの連携、そして信頼構築がなされているか?
    • 営業プロセスとアカウントプランが透明性高く共有出来ているか?(営業計画に基づく適切なABM対象選定が行われているか?)
    • 営業の現況/能力(ABM対象企業との関係性や取引状況、営業力、顧客/業界の知識)が共有出来ているか?
  • Technology and Insight Readiness
    • 必要なデータのカバレッジ状況、更新頻度、扱いやすさに問題はないか?
    • 顧客とのエンゲージメントを高めるためのデータやドキュメントを集約し管理出来るか?
    • SFAやMAなど、必要なテクノロジーの準備と連携状況に問題はないか?
    • Personalization、Predictiveなどに代表されるABMに活用し得るテクノロジーの採用の検討が成されているか?
  • Resourcing Adequacy
    • 必要な予算が取得出来ているか?
    • プログラム/プロジェクトのリーダーとスタッフに適任者をアサイン出来るか?

 

ABMの準備と実践がもたらすマーケティングレベルの向上

ABMは、実践を前提に進めるのではなく、売上や活動分析に基づいた適用の検討と採用モデルの選択が肝になります。

モデルの例としては以下などがあり、適切なモデルを採用し、成功可能性を高めることが重要です。

  • Large Accountモデル

売上/利益相関性の高い特定顧客の存在や活動分析の結果としてカバレッジ率の低迷等が確からしいものとなった際に採用

  • Named Accountモデル、Industry/Segmentモデル

対象マーケットは広いが、売上分析の結果から、購買期待値が特定業種などの企業属性、特定課題に偏っており、契約/未契約に関わらずターゲット顧客の特定が可能である場合に採用

 

 意訳紹介した前述の準備&アセスメントフレームワークについて、当然ながら、全ての要素に“準備万端”と答えられる状態にすることは不可能に近いですし、その必要も全くありません。各企業色のABMの成功のために重視する要素は異なって然るべきです。重要・必要な要素に対し十分な準備が出来ていなくとも、実践を通じて完成度を高めていくという方策を取る判断もあるでしょう。

ABMの概念やフレームワークに基づいて、マーケティング部門が、経営や営業部門、そして顧客をより深く理解し、マーケティング活動の創出価値を高めようとする行動自体に大きな価値があると私は考えます。

自社にとって最も収益を期待出来る/最も大きな価値を提供出来る顧客(ABM対象顧客)、またその主要なステークホルダーである営業部門と、深く真剣に向き合う機会はこれまで多くはなかったというマーケティング部門が多いのが現状ではないでしょうか。

マーケティング部門/マーケターが、他の誰よりも顧客を知ろうとする・知る存在として、顧客や営業部門と向き合う重要な機会を、ABMのアプローチは創出します。

マーケティング部門の慢性的課題としてよく聞かれる、「マーケティング部門の取り組みが経営や営業に評価されない」「マーケティング施策が売上につながらない、つながっているかわからない」などの解決のきっかけとなる可能性が大いにあるのではないでしょうか。

 皆さまのマーケティング活動が、顧客にとって価値あるものであると評価され、企業経営にとって欠かせないものとなり、営業の売上に直接的に貢献する組織となるために、ABMが良い機会・題材となることは間違いないと考えます。

岩田 恭行(Yasuyuki Iwata) / 2BC Inc.

     

     

    SiriusDecisions 2017 Summit APAC レポート
    ~BtoBマーケティング最先端イベントinシンガポール~

    2017年11月16日、BtoBマーケティングイベント「SiriusDecisions 2017 Summit APAC」に参加しました。開催地は多国籍企業が「アジアのハブ」として注目しているシンガポール。多民族国家であることに加え、各国の駐在員が街を行き交う人種のるつぼです。

    主催者であるSiriusDecisionsは、リサーチ&アドバイザリーファーム「ガートナー」から独立したアメリカの企業で、BtoB企業のマーケティング、営業部門・マーケティング部門の組織づくりを支援しています。

    B2Bマーケティングの最大級イベントである「SiriusDecisions Summit」はこれまでも米国や英国にて開催されていますが、アジア・アセアニア地域(APAC)での開催は今回が初めて。ホテルとイベント会場が一体化した施設に、APACに拠点を置く多国籍企業の参加者250人以上が集まりました。今回のスピーカーでもあったSiriusDecisionのGil Canare氏に尋ねたところ、参加者の多くがテクノロジー系(ICT)の企業とのことでした。日系企業の参加者の姿は見受けられませんでした。

    なぜ今コーポレートとリージョンの連携強化に重点が置かれるのか?

    残念ながら、コーポレートとリージョンの関係は部門内と部門間の両方において緊張関係にあると多くの多国籍企業が口にします。今まで、彼らのリージョナル戦略は、コミュニケーションやプロセスにおいてコーポレートが立てた戦略の直輸入版を使用せざるを得ませんでした。これが内的連携不足(リソースの非効率的な使用、無駄な時間や落胆)かつ外的連携不足(連携のとれていないメッセージや市場投入までの時間、そして更なる落胆)に陥らせるのです。

    そこでSiriusDecisionsは、グローバルビジネス環境のますますの変化に伴い複雑化する多国籍企業の組織間連携・融合をいかに促進させるかをイベントの主要メッセージとして掲げ、6つのキーノートを紹介しました。

    また、「営業・マーケティング・製品」の3部門間の連携を促進させるため、各部門へのアクション・アイテムが提供されました。今回の速報では、主にその概要を大きく2種類に分け、何が学べるものだったのかについてご紹介します。

    今回の主題メッセージ

    「高度に可視化され接続し合ったグローバルビジネス環境の中で活動する新世代の組織と労働者が進化するにつれ、コーポレートとリージョンの関わり方を見直す必要がある」

    「コーポレートとリージョンは、互いの相違点にとらわれるのではなく、共通の強みを発揮して”共通の課題”(=成長)に取り組むために協力し合うことが求められる」

    I. リージョナル・マーケティング

     

    1. Reimagining Corporate and Regional Interplay

    Keyword「営業、マーケティング、製品の連携」

    コーポレートとリージョンがうまく連携することにより、売上向上を19%加速化、生産性を15%高められるという調査結果が冒頭で共有され、さらにSiriusDecisionsの代表Tony Jaros氏は、コーポレートとリージョンの関係を親子の関係に例え、「営業、マーケティング、製品の共通の目的は成長すること。だからこそ三者間の連携(Alignment)が重要」と強調しました。

     

    “Growth is the shared goal between sales, marketing and product. Therefore, alignment is the key.”
    — SiriusDecisions 代表Tony Jaros氏

    2. The B-to-B Buyer’s Journey: The Asia-Pacific View

    Keyword「B2B購買プロセスの5つの神話」

    こちらのセッションでは、B2B購買プロセスによく見受けられる5つの「Mythology (=迷信)」ゆえ生じている誤解を、実際の調査を元に解いていきます。

    迷信① 購買プロセスは一つである

    迷信② B2B購買プロセスは直線的である

    迷信③ 人間はデジタルで置き換えることができる

    迷信④ B2B顧客は購買プロセスの初期段階では営業と関わらない

    迷信⑤ グローバル顧客とリージョナル顧客に違いはない

    例えば迷信⑤では、購買プロセスの「教育(Education)」⇒「ソリューション(Solution)」⇒「選択(Selection)」の各段階で、どのようなコンテンツタイプがグローバルとリージョナル顧客それぞれに好まれるかの理解が、地域毎のマーケティング活動を最適化するために重要であることが取り上げられました。

    3. Optimising the Regional Program Design and Marketing Mix

    Keyword「リージョナル・マーケティングという挑戦」

    統合型マーケティング・コミュニケーションなどといったグローバル企業としての要件と、文化的・言語的関連性を向上させるというリージョナル要件のバランスをとるにあたって地域マーケターが抱えがちな5つの挑戦に対し、新たにローカライゼーション・フレームワークが発表されました。

    課題① 一貫性と関連性のバランス

    課題② 限られたリソースの分配

    課題③ 各地域文化への配慮

    課題④ 各国レベルでの複雑さ

    課題⑤ グローバルとリージョナル間のタイムリーな連携調整

    Microsoft APACでCMOを務めるJolaine Boyd氏も、コーポレート・コンテンツからターゲット地域とのギャップをつきとめ、地域用、さらには各国用に最適化していくことが必要であると述べていました。

    II. マーケティング・フレームワーク

     

    1. Field Marketing and Sales: The Relationship Evolves

    Keyword「マーケティングと営業成熟した関係」

    ここで言われている「フィールド・マーケティング」は、各国支社やリージョンのマーケティング担当のことを指しており、顧客と営業の進化する要求に応じるためにも、フィールド・マーケティングを成熟させる必要がある点が強調されました。では、どのように成熟させることができるのでしょうか。この問いかけに対し、SiriusDecisionsのMark Levinson氏は「フィールド・マーケティング成熟モデル(Field Marketing Maturity Model)」を展開します。

    このモデルによって、B2B企業のCxOはフィールド・マーケティングを評価し、どのエリアに投資を継続し、最適化していくかの決断をとれるようになります。

    フィールド・マーケティング成熟モデルの6つの構成要素

    1. 定義と目標:役割と、成功への連携方法を具体化する
    2. 連結または連携:マーケティングと営業の戦略的配置。いかに直接的かつ間接的に営業を巻き込んでいくのか
    3. プロセス、手順:それぞれの部門が機能するための、継続的かつ管理されたプロセスとは
    4. スキル、知識、トレーニング:フィールド・マーケティングに必要なスキルは何か。もし今日スキル不足が嘆かれるのであれば、いかにそれを得ることができるのか
    5. 技術、ツール:最重要要素ではないが、決定的要素。いかに効率と効果を促進させるか
    6. 測定、報告:営業とマーケティング双方の観点で、どのように何をするのが共通目標に対する最善の結果が得られるのか

     

    2. The Demand Unit Waterfall®: Which Approach Is Right for You?

    Keyword「Demand Unit Waterfall」

    2017年5月に発表された、Demand Waterfall®の派生形であるDemand Unit Waterfall®が、今回初めてAPAC地域に持ち込まれ「いつ、どのようにDemand Unit Waterfall®を導入するべきか」の決断に役立つフレームワークが紹介されました。また、Demand Unit Waterfall®をフルに採用していない企業に対しても、どのように各要素を役立てることができるかを説明していました。

     

    3. Preparing Your Organisation for Account-Based Marketing

    Keyword「ABM実施に求められる基礎的要素」

    APACは成長率が高いリージョンではありますが、マーケティング・リソースは不十分であるケースが多く、リソース配分の優先順位付け・選択集中が重要であり、とりわけABMがソリューションとなり得やすいようです。ただ、ABMがマーケティングのすべての課題に対する解決策として期待されすぎているのが実態で、このセッションでは、その万能薬的イメージを払拭し、ABM戦略を策定するための準備レベルの評価方法の例を紹介しました。

    また、最適なスタート方法、ABMへの賛同を得るために必要な成功例の作り方、スコープの確立法、組織の準備状況(readiness)の評価方法、能力ギャップの特定と主要ステークホルダーとの連携方法などのABMの成功要素が、APACの特色を踏まえながら紹介されました。

    ABMのセッションを担当したNickey Briggs氏と対話した際、日本について次のようにコメントしていました。

     

    “日本は営業と顧客との関係が強いので、ABMに向いている国と言えるでしょう”

    — SiriusDecisions Nickey Briggs氏以上がイベント速報ですが、一部のセッションについて、より詳細なレポートを後日展開いたします。グローバル・コーポレートが日本を含むAPACとの連携を強化させ、今後このリージョンが今まで以上の盛り上がりを見せることを願ってやみません。2BCも今回のイベントで得たものを大いに活かして参ります。

    モナール 園子 (Sonoko MONARD) / 2BC Inc.

     

    Marketing Nation summit 2017
    あなたのマーケティング実行レベル・成熟度は?

    マルケト社が主催したMarketing Nation Summit 2017について、第2回目の連載記事です。

    前回のブログでは、テクノロジー・マーケティングテクノロジーの進化は多くのマーケターの活動を支える実行基盤を提供してくれるようになったものの、今こそマーケターはBuyerにとって寄り添った・かみ合ったコミュニケーション=Engagement を行わなければいけないというマルケト社のメッセージについて触れました。これは当たり前のことのようにも思えますが、逆行するようなマーケターの所作がどんどん増えていっているのは一人のBuyerでもある自分も強く感じています。テクノロジーの進化を活かしきれていないのです。

    Buyerと、どのように寄り添った・かみ合ったコミュニケーションを行っていくべきかはさておき、今回はいくつかの現存するマーケティングテクノロジーについて活用例を含めて理解を深めておきたいと思います。

    マーケティングテクノロジーはMarTech全体で捉えなければいけないと思いますが、マルケト単体でもマーケティングテクノロジーをどんどん取り入れ強化しています。ABM, Predictive Content, Analyticsなどがその例です。

    下図はDay3のブレイクセッションで配布された資料です。これは主なマーケティング機能の活用レベルによって、マーケティング実行レベル(成熟度)を4段階で測定するためのワークシートとなっています。ここに記載されているマーケティング機能はすでにマルケトが機能として備えているものがほとんどです。

    BtoBやBtoCの違いなどを理由に、自社ではそもそも注力していない機能領域も含まれているとは思いますが、みなさんのマーケティング成熟レベルは総合的にどこに位置付けているでしょうか?簡単に4つのレベルを日本語で整理し、具体的な活動の状態をイメージしてみたいと思います。


    実行レベル1 ~後発対応・Reactive~

    ”ある時点”のために計画されたシングルチャネルのマーケティング

    • バッチキャンペーンによるEメール配信
    • ランディングページの制作
    • フォーム作成とプログレッシブプロファイリング
    • 基本的なセグメンテーション
    • Eメールとランディングページのテンプレート化
    • CRMなどのデータとのインテグレーション
    • Ad-hocキャンペーンレポート
    • Eメール到達率の最適化
    • Webサイトビジターのトラッキング

    この実行レベルにおいてはCRMとの基本的なデータ連携を終えマルケトの一通りの機能は理解したうえで、ランディングページを制作したり、段階的に見込み客の情報を収集するよう工夫されたフォーム作成ができたり、配信到達率などEメールパフォーマンスの改善などを継続している状態です。

    一見、マーケティング活動の状態としてはそこまで未熟ではないようにも思えますが、この状態は最も多くのMA導入企業が陥っている単にMAがメール配信ツールの置き換えになっている状態であると思います。言い換えると「メールマガジンXX月号」という定期的なこれまでの活動を継続している状態です。メールマガジンという言葉自体が、いかにもメッセージごちゃまぜな古典的な日本のマーケティング活動と感じます。後述する行動ベースでのコミュニケーションや継続的・自動的なマーケティング活動にはなっていません。


    実行レベル2 ~予防対応・Preventative~

    ”継続性”のあるマーケティング活動

    • トリガーキャンペーンによるEメール配信
    • 基本的なナーチャリングキャンペーン
    • 基本的なEメールのパーソナライゼーション
    • 属性によるセグメンテーション
    • エンゲージメント頻度によるスコアリング
    • イベント/ウェビナーのプログラム
    • End to Endのレポーティング
    • マーケティング部門外のチームへの共有
    • ソーシャルマーケティング機能のインテグレーション
    • ランディングページのパーソナライゼーション
    • Webコンテンツのパーソナライゼーション
    • ターゲットアカウントに関するABMの実行

    この状態は、マーケターが恣意的に決めたマーケティングカレンダーに基づく活動から脱しようとしています。例えば、特定製品のカタログをダウンロードした顧客に対してn日後から段階的に製品活用事例をお知らせするという自働化プログラムが実装されていたり、特定ページにアクセスした顧客にはその行動を”きっかけ”として関心の高そうなメールを自動で配信したり、その行動を特定製品への興味としてスコア累積したり、卸・小売業などアクセス企業の属性情報に応じたコンテンツ表示の出し分けを行う・・・などができている状態です。

    定期的なマーケティング活動ではなく、継続的・自動的な活動に変化しようとしています。こうした活動が実現できている国内企業は多いと思いますが、この領域に含まれていてレベルが高いと感じるのはマーケティング以外のチームと情報共有を行い、そうした社内コミュニケーションに基づいた特定アカウントへのマーケティング関与(ABM的アプローチ)が実現しているということです。国内企業特有のセクショナリズムなどが弊害となって、CXO・営業・マーケティングがOneTeamで取り組むことにはまだまだ一定以上のハードルがあると思います。同一レベル内でもABMを同時に実現できている企業はまだまだ少ないと感じます。


    実行レベル3 ~積極的で気の利いたマーケティング・Proactive~

    チャネル横断で個々に合わせたコミュニケーションの実行

    • マルチチャネルでのキャンペーン実行
    • 進んだナーチャリング活動
    • 進んだEメール配信
    • 行動によるセグメンテーション
    • 売上に対する貢献度の測定
    • プログラムやキャンペーンの効果分析
    • SMSやアプリなどモバイルとの連携
    • PredictiveなWebコンテンツ
    • 複数のデータソースとの連携
    • 購買期待値が「似ている」ターゲットに拡張した広告ターゲティング

    このレベルのProactiveを”気の利いた”と訳すのが正しいのかはわかりませんが、何かしっくりきます。進んだという表現は非常に抽象的ですが、私の持つイメージで考えたいと思います(Marketo社が機能にAdvancedという言葉を使うときは動的な要素が含まれているということだと思いますが)。このレベルでは継続的・自働化された育成プログラムは、より顧客に合わせた高度な実装内容に変化しています。例えば『潜在→課題顕在→行動量が増えスコア値超過→営業へ送客』といった単一の育成プログラムも顧客の購買意識の状態に合わせてコミュニケーションしているという意味で評価できます。しかし更に上を目指すのであれば、これも極めて画一的な自働化プログラムであると言わざるをえません。

    顧客購買プロセスといえど、経営層が検討するときと担当者が検討するときではその検討プロセスも触れているコミュニケーションチャネルも明らかに異なります。こうした違いを高度なスコアリングロジックや外部データソースを元に的確に把握し、それぞれに合わせたマルチチャネルでの細分化された育成プログラムを実現できているのがこの状態といえます。さらに施策ごとに創出した商談金額や売上金額、つまり「¥」との相関性を把握して施策の取捨選択を高サイクルでまわし、コンテンツ評価も事後的に結果を振り返り勝敗付けるのではなく、実際にアクセスされコンバージョンされた結果をWebサイト自体が自動解析・学習し、最適なものを表示することができている状態です。

    海外でも日本のマーケターが表彰される機会が増えてきていますが、一部の国内マーケターのトップランナーはこの状態を実現していると思います。国内では連携できる外部データソースが不足していたり、セキュリティイシューが原因でBtoBのデータソースが活用できるレベルになかったりと大きな不利はあるものの、日本人のきめ細やかさが故に、購買意識の状態把握や細分化された育成プログラムのロジック設計が海外も驚く非常に高度なものになっているとクライアントワークを通じて私も感じています。社内におけるLeadGen,DemandGenそれぞれのマーケティング活動が¥との相関性を求められはじめていることも間違いないと思いますが、まだまだマーケティング活動が社内で定常業務化していないため評価のあり方も定まっていないのが国内の現状だと思います。


    実行レベル4 ~変化を続けるマーケティング・Transformative~

    チャネル横断でライフタイム全体での関係性を維持する

    • ライフタイム全体でのナーチャリング
    • チャネル横断でのPredictiveなコンテンツ
    • オムニチャネルでのキャンペーン
    • 進歩した売上分析
    • グローバル企業規模での取組み

    顧客との関係をライフタイム全体で考え、あらゆるチャネルでコミュニケーションができている状態です。例えばあるブランドを購入したときにWelcomeメールか届く。そのブランドからリリースされたモバイルアプリを使って自分だけのお気に入りの情報に触れ、さらに実店舗で購入し、ブランドへの好感度が高まっていく。違うブランドへの乗換も買替えもせず、顧客のライフタイム全体が続いていくという状態です。P&Gやコカ・コーラといったグローバル企業規模のリソースがなくても、同規模の取り組みを目指すことはできます。国内でもZOZOなどのBtoC企業ではこうした状態に近づいていると一消費者として感じます。

    Marketing Nation Summit 2017 参加レポート

    ただいまサンフランシスコで4月26日の朝7時を迎えています。

    本日が最終日となりますが、4日間にわたりマルケト社が主催するMarketing Nation Summit 2017に参加してきました。熱気冷めやらない中で、ひとまずの感想を書きたいと思います。

    言うまでもなく、今日多くのマーケターは購買担当者・消費者の行動の変化に合わせ、より多くのマーケティング活動を行う必要がでてきました。こうした変化の中でテクノロジーの・マーケティングテクノロジーの進化は、多くのマーケターの活動を支える実行基盤を提供しています。

    購買担当者・消費者の変化はまだまだ続きます。1日に60億を超えるソーシャル上でのコミュニケーションが行われる時代。ブランドよりも、口コミのほうが強く耳に届く時代。購買担当者・消費者は好きなブランドには自分のことをもっと知ってもらいたいと思うはずです。そして自分にあわせたメッセージを届けてほしいと願っているはずです。まさにBuyerを中心とした時代です。

    こうした中でマーケターは何をしていくべきなのでしょうか?? KeynoteでマルケトCEOのSteveは次のように言います。

     

    “購買担当者・消費者は、より自分を個人・ヒトとして扱われたいと思っています。そうした購買担当者・消費者に対してマーケターの皆さんは価値のある存在になりたいと思いませんか?価値を感じてもらえていないとして、そのことに気づいていますか?
    購買担当者・消費者のためにシゴトをしましょう。今日は購買担当者・消費者の声のほうがブランドより強く耳に響きます。購買担当者・消費者の時代がきています。仮にオプトアウトをした購買担当者・消費者がいたとしても、好きなブランドからの自分に合わせたメッセージを継続的に求めているのです”
    私も日々のクライアントワークの中で、マーケティングのコミュニケーションリミット(通信制限)はどのように考えるべきですか? と聞かれることがよくあります。そのときは決まって、そこに絶対的な基準はなく受け手側がそのコミュニケーションを好意的に捉えるかどうかが問題です、と答えるようにしています。同じブランドから、1日に何通のメールが来ても、モバイルアプリ上でメッセージが出てきたとしても、ネット検索していても広告が表示されたとしても、受け手がそのコミュニケーションを好意的に捉えるかどうかが全てだと考えます。(Spammyではなく!)今回のイベントでは「Marketing」ではなく「Engagement」という言葉が多く使われています。「Engagement」という言葉は、ある会社・ブランドからの一方的なマーケティング活動の送り手・受け手というのではなく、購買担当者・消費者に寄り添った・かみ合ったコミュニケーションが実行されている社会を想像して多用されているのでしょう。

     

    さて、こうした前提の中で具体的にマーケターは何をしていけばよいのでしょうか。私自身は今年2回目のUSのマーケティングイベントの参加になりますが、アメリカのマーケティングから学びたいポイントは、下記の図にまとめたマーケティングの実行レベルモデルを、何をすれば日本国内で現実的に向上していけるのか、そのきっかけを得ることです。

    Engagement社会が到来し、テクノロジーが進化することで、マーケターが「しなければいけないこと・できること」はどんどん増えていきます。

    しかし一人の人間が健全な状態で働ける時間は約160時間/月であることは変わりません。(もっと働けるでしょ、というハードワーカーの方からのご指摘はさておき)

    私はマーケティングオートメーションの定期オペレーションや定期的な過去データ解析やデータメンテナンス、毎月のメールマガジン作成のためのネタ探しとコンテンツ制作……などはここまでに述べた「これからの時代」に逆行していく人間の所作と考えています。
    あっという間に機械が行う作業に置き換わると思います。機械人に人間が乗っ取られるような世界は銀河鉄道999などで子供のころからよく目にしていました。(そのときはトンデモない空想だと思ってましたが)

    人間たるマーケターが関わることができる時間は変わらないとしても、関わる内容は変えていかなければなりません。

    これからのマーケティング活動は

    • 過去回帰ではなく未来志向
    • 一人一人に合わせたコンテンツによるコミュニケーション
    • 売上成果など具体的な目的に合わせたマーケティング活動
    • 大量のデータをもとに動向分析と未来シナリオを導出するAIシステム
    • 複数のデータソースから構成される1社1社・1人1人の顧客データベース
    • CMOが会社の売上を担う最大のキーマンとなっている時代

    ・・などに移行していくのは間違いないと私は想像しています。(2年以内くらいに)

    テクノロジー・MarTechはこうした活動を支える準備がすでにあります。
    どのような準備があるのか、具体的なテクノロジーについては帰国後に(連休後に?)次回を書きたいと思います。

     

    2BCより新年のごあいさつ

    新年あけましておめでとうございます。
    昨年中は大変にお世話になりましてありがとうございました。心より御礼申し上げます。

    多くの方々に支えられる中で、徐々に2BCとしてのやり方や、目指すことを具現化させるための道筋が見え始めてきたように感じております。「クライアントの売上にBtoBマーケティングできちんと貢献する」――ここからぶれずに本年も邁進していく所存でございます。

    本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

    SiriusDecisions SUMMIT 2016 レポート(1)
    〜BtoBマーケティング最先端の地へ

    2016年5月24日〜27日の4日間にかけて、世界最大級のBtoBマーケティングのイベントである「SiriusDecisions SUMMIT 2016」に参加しました。開催地はアメリカのテネシー州、ナッシュビルという都市で、音楽の都と称され街中に音楽があふれています。このような街の郊外にある、Gaylord Opryland Resortというホテルとイベント会場が一体化した施設に2000人以上のBtoBマーケティングに関わる人々が集まりました。その概要と何を学べるのかについて、いくつかのプログラムとともにご紹介します。

     

    2016年のテーマ「Art & Science of Intelligent Growth」

     

    SiriusDecisionsは、BtoB企業のマーケティングや、営業部門やマーケティング部門の組織づくりを支援するアメリカの企業です。同社が培ったノウハウやフレームワーク、ケーススタディを紹介するとともに、アメリカを中心としたBtoBマーケティング向けシステムやサービス提供企業の展示も行われる一大祭典がこのSUMMITという位置付けです。すでに11回開催されているという実績、2000名以上の参加者ということを考えると、多くのBtoB企業に支持されていることがうかがえ、まさに最先端を走る企業といえましょう。今回のテーマは「Art & Science of Intelligent Growth」。“音楽の街”というこの地を意識したコピーが付けられています。

    その4日間にわたるプログラムの中でも、いくつかの内容をご紹介します。

     

    Sirius Foundation Sessions

     

    初日の午前中に行われたのが、基本的な用語を35分でおさらいするこのセッションです。同時に4箇所でセッションが行われるので、自分が最も興味を持つ内容のセッションにしか出られないのが残念なところです。そのプログラムを見てみましょう。

    どのセッションを受講するか難しい選択。悩んだ末、黄色にマーカーした3セッションに参加。

     

    中でもAccout Based Marketingのセッションは、今、注目を集めているだけあって多くの参加者でにぎわっていました。短時間ながら、独自のフレームワークをもとに異なるアカウントでの取り組み方のエッセンスを紹介し、「ABMリーダーになるためのおすすめセッション」を紹介していました。

    いま、ABMというと、その多くがLarge Accountを対象したものが多いでしょう。それ以外にNamed Accout、IndustorySegmentまで分類し、具体的な手法をフレームワークで紹介している点で特徴的と感じました。

     

    コンテンツクリエイティブという立場から注目したのはCommunicationsのセッションです。コミュニケーションの定義は変わるものではないけれど、その手段は多様化し、それぞれ特化が進んでいるのは洋の東西を問いません。このコミュニケーションを、Brand and Reputation、Influencer Relations、Content and Messaging、Social Media、Structure and Measurementの5つに分類し、それぞれに対する取り組み方のアウトラインを紹介していました。

     

     

     

    Sirius Keynote Sessions

    SiriusDecisionsの、最新のBtoBマーケティングに対する取り組みや考えを述べるKeynote Sessionsは各日1〜2セッション行われました。2000人以上もの収容量はあろうかというメイン会場で行われます。初日のKick off Keynotesはグランドピアノの演奏から始まるという趣向で「Art & Science」というテーマのArt=音楽を表したものでもあります。学びへの緊張感を、Artにより緩和するというバランス感覚には感心します。

    またこのKeynote Sessionsの中では、著名な「Demand Waterfall」についても改めて詳細解説がありました。InquiryからMarketing qualifications、Sales qualificationsを経てCloseに至る流れをわかりやすく解説したこのモデルは実際、多くの事例にも登場し、その効果を証明しています。しかし、アメリカでも今なお、こうした“基本”ともいうべきフレームにもとづいてマーケティング・セールスを実施できている企業がすべてではないのでしょう。このWarterfallの内容を分解し、いかに売上に寄与するのか細部に渡って解説していました。“基本”に忠実に、徹底することがいかに重要か、改めて気付かされます。

     

     

    ROI Award Winner Presentation

    ROI改善に成功した企業が、自社がどのようにして、どのくらい改善できたのかを発表するセッションです。Zebra Technologies社、Microsoft社、ServiceNow社、FIS社、Commvault社など、世界的に名立たる企業の改善例を紹介します。それぞれの企業らしさにあふれた表現豊かなプレゼンテーションも見ものですが、やはり注目したいのは「Science」の部分。フレームワークを活用し、どの施策を行い、どのような効果が現れたのか、丁寧に1つひとつ数値化されていること。仮説に基づくすべての施策を記録に残し、検証可能な状態にしあることは、より効果的な改善策につながることでしょう。

    例えば上記のWaterfallを実践したときにも、それぞれの過程においてどのような数値が得られたのか記録されます。強みや弱みが可視化・客観化されることで、次に何をすべきかが明確な根拠ととも判断できるようになります。「当たり前」と思われるかもしれませんが、BtoBマーケティングに関わる方ならば、基本に忠実に徹底的に取り組む難しさをご存知でしょう。次回コラムでは、上記のうちMicrosoftの事例について、もう少し細かく紹介します。どこまで取り組んでいるのかを参考にしてみてはいかがでしょうか。

     

    ▲ROI Award Winner Presentationの一コマ。目を惹くプレゼン、数値化された施策の結果。ArtとScienceが共存している。